ところが、銀行に問い合わせをしながら気付いたことが一つありました。
約束を一度したものを銀行の都合で「担保価値がないから」と、一言で片づけるわけにはいかないのではないかと!
そこで、元の銀行にどうすればいいかを聞いて、必要な書類を奥さまが集めて回ったり、Tさんも奥さまに任せておけずに、何度か銀行に足を運んで交渉しましたが色よい返事はありません。
私も銀行に電話で
「調整区域といっても家を建てることができる場所で、違反するわけではないから担保価値を調べてくれ。」とお願いをしておきました。
そうしているうちに公庫の融資予約の通知書が届いたので、
「まず、建築確認申請を出して銀行の担当者にプレッシャーをかけましょう。」と提案。
「大丈夫ですか?」「分かりません。」と、運を天に任せた格好でいました。
2ヶ月程経ったでしょうか。
奥さまから電話で
「銀行から400万円は借入可能と返事がきたが、何かいろいろ数字を並べてあってよく分からない。」とのこと。
私から銀行へ電話して調整。
そして翌日、Tさん夫妻と銀行へ行って、どうしても700万円必要であることを説明しましたが、担当者は煩わしいことこの上ないという顔。
果報は寝て待てとはよく言ったもの。
数日後、その銀行の担当者の北海道への転勤が決まり、融資の話をまとめたいので、工事見積書と返済が問題ないということを説明するものを持ってくるようにとのこと。
1週間後に770万円の融資の了解を取り付けてホッと一安心。
この間、まったく不慣れな融資の話を冷たい銀行マンと進めた奥さまは大変でした。
予算300万円オーバーも工務店の値引きで無事完成
資金の話と併行して進められた設計も、Tさんは「住めればいい」の一点張り。
何かと言うと「迷惑がかかって悪いし、大変ですし。」と任されてしまいました。
本来このような家づくりはしたくはないのです。
どんなローコストの住宅でも、住む人のために私たち設計者はテーマを決めて設計を進めます。
そのよりどころとするものが、どんな生活をしたいか、という建主の希望なのです。
今回は行きがかり上、仕方ないと進めました。
施工者も私共の知っている工務店にお願いをして協力してもらいました。
特に工事見積りで予算より300万円高くなったにもかかわらず、一部の変更と値引きによって予算内で無事着工できました。
設計スタート時はどうなることかと心配しましたが、工事中は特別なこともなく現場は進み無事完成しました。
引渡しできたときは、今までには味わったことのないような疲労が残りました。
ローコスト住宅を引き受けると、工事が終了するまでは毎度のことながら、「なぜこんな設計を引き受けてしまったのか」と後悔します。
でもまた同じことを性懲りもなく繰り返すのです。
どんな住宅でも、住まいをつくるのは、携わる人全員が力を合わせ、最後は全員が喜びを分かち合えるからで、苦労が大きいほどその喜びは大きいからです。 |